kshinshin's blog

ヨモヤマ話

映画「私の少女」

ペ・ドゥナが自身のセクシュアリティを問題視されて左遷されてしまったキャリア警官を演じる。左遷先は漁業関係者で若い男が一人だけというような寂れた漁港。出稼ぎ外国人、高齢化、少子化がひろがった漁村といっていい町だ。そこの署長としてペ・ドゥナは働くのだが、酒をペットボトルに移してガブっと飲むような酒豪で、繊細というよりひとり酒に哀愁を湛える、ハンフリー・ボガード高倉健のような女性だ。その彼女がDV被害者の少女を救ける。だが町が頼りにする若い男がその少女の父親で、祖母も粗暴極まりない女。まあ、三輪バイクで追っかけまわす婆さんは怖かった。少女がとても腹が減っていて、僕はその食いっぷりの描写に涙した。飢えた記憶のあるひとなら、泣けるはずだ。イーストウッドミリオンダラー・ベイビー」で最も泣けたのはダイナーで食べ残しをウェイトレスが持って帰る場面だった。この貧しさを描くことをやめた日本映画はどこか遠い世界へいってしまった。これだけ貧困など叫ぶ割には、映画で描かれないのは(あっても薄っぺらい)のは残念な金鉱を逃してはいないか。

まあ、ペ・ドゥナは父親からの逆襲にあい、少女を保護した生活が裏返しの児童虐待になるところは凄惨であり、どこぞの高校の先生が自分の生徒とどうとかするといったような見せかけの人間サスペンスドラマとは大きく違う、法的、シチュエーション的ガジェットである。素晴らしい。そこからの続きも見事で、モンスター呼ばわりされる少女と雨の中、あてどなく去っていく姿には西部劇の味があり、映画的には高揚し、己の胸には突き刺さる。

 

岸川真